大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所久留米支部 昭和51年(ワ)46号 判決

原告 佐田淳一

右法定代理人親権者父 佐田要

右法定代理人親権者母 佐田幸子

右訴訟代理人弁護士 諸冨伴造

右同 古賀誠

被告 北野町

右代表者町長 稲田勤

被告 厨忠恭

被告ら訴訟代理人弁護士 古賀義人

主文

被告らは原告に対し連帯して金二二五七万四九三八円とこれに対する昭和五一年四月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の各請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し連帯して金二二五八万円とこれに対する昭和五一年四月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告、被告らの身上関係

被告厨は昭和四七年一一月当時被告北野町立大城小学校の教諭で、同小学校六年の担任であり、原告は当時同小学校六年に在学する児童であった。

2  事故の発生

(一) 昭和四七年一一月二七日、四時間目の理科の授業時間に原告は被告厨の指導のもとに塩酸から水素を発生させる実験をしていた。

(二) 原告は被告厨の指示により、水素の発生を確認するため、発生した水素を誘導するガラス管の口にマッチの火を近づけた瞬間、大きな爆発音とともに右実験に使用していたフラスコが破裂し、その破片により原告は右眼を負傷した。

(三) その結果、原告は加療約一年四か月(そのうち入院加療一一五日間)を要する右眼角膜穿孔創、癒着性角膜白斑、外傷性網膜剥離、外傷性白内障、外斜視、左眼屈折異常の傷害を受けた。

3  責任原因

(一) 水素は爆発性の強い元素であり、水素の実験には常に爆発の危険が付きまとうのであるから、被告厨は担当教諭として実験中常に周到な注意をもって事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、安易に原告をして水素の誘導管の口に点火したマッチを近づけさせた過失により本件事故を惹起したものである。

(二) 被告北野町は被告厨を使用し、同被告が被告北野町の業務たる大城小学校の授業を執行中、その過失によって本件事故を発生させたのであるから、国家賠償法一条若しくは民法七一五条一項に基づき、本件事故により原告が蒙った損害を賠償する義務がある。

4  損害

(一) 治療費        一〇万円

原告は事故直後、実吉眼科医院および久留米大学医学部付属病院(以下久大病院という。)で診察を受けた後、同病院で直ちに手術を受け、同病院の手配で国立久留米病院(以下国立病院という。)に入院し、昭和四七年一二月九日同病院を退院し、以後昭和四八年五月二日まで久大病院に、同月から同年六月まで実吉眼科医院に通院して治療を受け、同五〇年七月四日実吉眼科の、同月九日久大病院の各診察を受け、右眼癒着性角膜白斑、網膜剥離、線状網膜炎、左眼屈折異常のため同年八月一三日同病院に入院して、同年九月八日手術を受け、同年一一月二二日同病院を退院し、その後同五一年三月まで同病院に通院して治療を受けた。

その間の治療費として原告は久大病院および実吉眼科医院に金二〇万円以上を支払い、原告の父佐田要が加入する国家公務員共済組合から半額の払戻を受け、結局一〇万円を下らぬ損害を受けた。

(二) コンタクトレンズ代   一万八二四三円

原告は本件傷害に基づく視力低下のためコンタクトレンズを使用しているが、その費用として一万八二四三円を要し、同額の損害を受けた。

(三) 付添看護費  一一万八〇〇〇円

原告は一回目の手術日から一二日間と二回目の手術日から四七日間の合計五九日間付添看護を必要とし、原告の母佐田幸子がその付添看護をした。その付添看護費は一日あたり二〇〇〇円が相当であるから、その間の右合計額は一一万八〇〇〇円となる。

(四) 入院雑費    五万七五〇〇円

原告は前記のとおり国立病院に一三日間、久大病院に一〇二日間の合計一一五日間入院して治療を受けたが、入院雑費は一日あたり五〇〇円が相当であるから、その間の右合計額は五万七五〇〇円となる。

(五) 通院雑費    一万二五〇〇円

原告は前記のとおり昭和五〇年一一月二二日から同五一年三月末日まで久大病院に二五回以上通院して治療を受けたが、通院雑費は一日あたり五〇〇円が相当であるから、その間の右合計額は一万二五〇〇円を下らない。

(六) 労働能力減退による逸失利益   一七四八万一一一七円

原告は事故当時両眼とも裸で一・二の視力を有していたが、前記傷害のため現在では右眼は裸〇・〇二、矯正不能(これは殆ど失明同様の状態である。)、左眼は裸〇・二、矯正一・二と著しい視力低下をきたし、将来ともこれが回復する見込は殆どない。加えて、現在もなお本を読むと眼が疲れやすく、日常生活でも種々の不便を余儀なくされている。右は自賠法施行令別表第八級一号に該当するから、原告はそのため労働能力の四五パーセントを失った。ところで、原告は昭和三五年九月一五日生の男子であるから、一八歳から六七歳までの四九年間は稼働することが可能であり、その間昭和五〇年賃金センサス男子学歴計平均給与年額二四七万五一一五円につき右割合でうべかりし利益を失うこととなるが、ライプニッツ式計算法によりその間の年五分の割合による中間利息を控除してその現在価額を算出すると、次のとおり一七四八万一一一七円となる。

247万5115円×0.45×15.695=1748万1117円

(七) 慰藉料       五〇〇万円

原告は本件事故による傷害のため、前記のとおり、二度にわたる手術を受けたほか、一一五日間入院し、かつ約一年間通院して治療を受け、しかも前示のような自賠法施行令別表第八級に該当するような後遺症により甚大な肉体的、精神的苦痛を受けてきているので、その慰藉料としては五〇〇万円が相当である。

(八) 損害の填補     一五〇万円

原告は本件事故による損害の填補として被告北野町から金一〇〇万円、被告厨および当時の大城小学校長たる訴外田中正和の両名から金五〇万円、以上合計一五〇万円の支払を受けた。

(九) 弁護士費用     一三〇万円

原告は被告らから任意の弁済を受けられず、右債権取立のため本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し、その報酬および費用として判決認容額の一五パーセントを支払うことを約束したので、本訴においてその内金一三〇万円を請求する。

5  結論

そこで、原告は被告らに対し連帯して前記4の(一)ないし(七)の合計損害額から同(八)の損害填補額を控除し、更に同(九)の弁護士費用を加えた合計金二二五八万七三六〇円の内金二二五八万円とこれに対する事故発生後である昭和五一年四月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2の(一)のうち、実験時間が四時間目であったことは否認するが、その他の事実は認める。実験時間は三時間目であった。

(二) 同2の(二)のうち、原告が当時右眼を負傷したことは認めるが、その他の事実は争う。右実験は水溶液による金属の変化の単元の実験学習として、塩酸によってアルミニウムなどが溶けるときに出てくる気体は水素であり、水素は軽くてよく燃えることを理解させることを学習の目的としていた。本件事故は、原告が被告厨担当による教師実験を手伝い、同被告が広口瓶に集めた水素をガラスで押え、右瓶のふたを原告が取ると同時に被告厨がろうそくの火を右広口瓶の口近くに持って行っていたところ、第一回、第二回と右瓶にろうそくの火を近づけてもその回りは燃えなかったが、第三回の操作中、塩酸がたりず、泡の出方が少ないので、フラスコの栓を取りはずして塩酸を加え、その口から水素が逃げないように固く栓をしていた際、突如水槽の中のガラス管が水中より引き上がり、にわかに約四〇センチメートル位側のろうそくの火に引火してフラスコが破裂したものであって、マッチの火を近づけた事実はない。

(三) 同2の(三)の事実は知らない。

3  同3の(一)、(二)の事実は否認する。

4  同4のうち(八)の事実は認めるが、その余の事実は争う。

三  仮定抗弁(和解契約)

仮に請求原因事実が認められるとしても、原告と被告らとの間において昭和四九年三月二八日本件事故について被告らは原告に対し金一五〇万円を支払い、原告は被告らに対しその余の損害賠償債務を免除する和解契約を締結し、被告らは原告に対し同日一〇〇万円、同年七月二〇日五〇万円を支払った。

四  仮定抗弁に対する認否

仮定抗弁事実は認める。

五  再抗弁(要素の錯誤)

被告ら主張の和解契約における原告法定代理人らの意思表示は、錯誤により無効である。すなわち、右和解当時の原告の視力は右〇・〇五、矯正〇・七、左一・二であり、この状態は和解契約締結前約一年間継続し、和解当時の医師の診断も大体このままの状態で安定するであろうということであったので、原告法定代理人らは原告において概ね右の状態で安定すると信じ、これを前提として前記和解契約をしたのであるが、後になって病状は意外にも再び悪化し、昭和五〇年八月一三日久大病院に再入院の余儀なきに至り、同年九月八日再度右眼の手術を受け、視力は昭和五一年三月二三日当時で右〇・〇四、矯正不能、左〇・六、矯正一・五、昭和五二年一月二七日当時には右〇・〇二、矯正不能、左〇・二、矯正一・二と低下し、かつ医師の診断では将来この状態が改善される可能性は殆どないとのことであることが判明した。従って、原告法定代理人らの前記和解契約における意思表示にはその重要な部分に右に述べたような錯誤があり、無効である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は争う。原告の視力は昭和四七年一二月一一日当時右〇・〇二(矯正不能)、左一・〇(矯正不能)であったが、同四八年五月二日には右〇・一、左一・二に回復した状態で傷病は治癒したと診断され、それから約一年、事故発生後約一年四か月を経過し、右と同視力の状態で症状が固定したと診断された後に右和解契約は締結されたのである。

第三証拠《省略》

理由

一  原告、被告らの身上関係

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  事故の発生

(一)  昭和四七年一一月二七日の理科の授業時間中原告は被告厨の指導のもとに塩酸から水素を発生させる実験をしていたとき原告が右眼を負傷したことは当事者間に争いがない。

(二)  《証拠省略》によると、当時被告厨は、小学校六年の理科における水溶液による金属の変化の単元の実験学習として、塩酸にアルミニウムを入れるとこれが溶けて小さくなり、その際表面から気泡が発生するが、その気体は水素であって、空気より軽く、かつよく燃えることを児童らに理解させることを学習目的としており、実験は児童の実験が終わって教師による実験の段階に入っていたこと、当時被告厨は、縦約一メートル、横約二メートルの長方形の教卓の上の端にフラスコを置き、これに希塩酸とアルミ箔を入れてふたをし、このフラスコの中から細い全長約五〇センチメートルの、両端にガラス管をつけたゴム管を通してその先端をフラスコから離れた位置にある、水を入れた水槽の中に導き、かつ水槽の中に広口の気体捕集瓶を口を下方にして入れて右ガラス管の先端を右捕集瓶の中に延ばし、フラスコ内で発生した水素を右捕集瓶に捕集する装置を作り、二回にわたり、右捕集瓶の口を逆さにしたままガラス板で押さえてこれを水槽から取り出したうえ、この瓶の口を上向きにしてガラス板を取りはずし、その口にろうそく又はマッチの火を近づけたところ、その口から水素が出てくればキュッというような音をたてて燃えるはずであるのに、いずれも燃えなかったので、フラスコのふたを取りはずして希塩酸とアルミ箔を加え再びそのふたをしたうえもう一回右操作を繰り返したけれども燃えなかったこと、そこで被告厨は一般に実験過程には取り入れられていないにもかかわらず、原告に命じて右捕集瓶を元の状態で水槽内に戻し、その中のガラス管の先端にマッチを点火して近づけさせたところ、同所付近に充満していた水素に引火し、教卓の側にいた原告の耳鳴りがする程の爆発音がしてフラスコが破裂し、その破片が原告の右眼に当たったことを認めることができる。

《証拠判断省略》

(三)  《証拠省略》によると、請求原因2の(三)の事実を認めることができ、右認定を左右するにたりる証拠はない。

三  責任原因

(一)  被告厨の責任原因

右に認定した事実と、公知であるところの、アルミニウム殊にアルミ箔は塩酸内で激しく変化することを考え合わせると、前記のようなガラス管の先端に火を近づけるならば爆発するおそれの高いことが予見されたのであるから、理科実験を担任する小学校教諭である被告厨としてはこれを避止して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったにもかかわらずこれを怠ったため、前記事故を惹起したものであるといわざるをえない。

従って、被告厨は右過失によって原告に蒙らせた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告北野町の責任原因

以上の事実関係によると、地方公共団体たる被告北野町の公権力の行使にあたる公務員である被告厨がその職務である理科授業を行うについて、過失によって違法に原告に損害を加えたものといわなければならないから、被告北野町は国家賠償法一条に基づき、本件事故によって原告が蒙った損害を賠償する責任がある。

(三)  和解の仮定抗弁と錯誤の再抗弁

(1)  被告ら主張の仮定抗弁(和解契約)事実は当事者間に争いがない。

(2)  《証拠省略》によると、右和解契約締結当時の原告の視力は右〇・〇五、矯正〇・七、左一・二であり、この状態はそれ以前約一年間継続し、和解契約締結当時の担当医師の診断もほぼこのままの状態で安定するであろうというものであったので、右和解契約は原告の視力が今後もほぼ同程度のまま安定することを前提とし、またその点については右契約を締結した原告法定代理人らならびに被告北野町の当時の町長および被告厨間に何らの争いもなかったこと、ところが原告の視力は予想に反し昭和五〇年七月頃に至るや悪化し、久大病院に同年八月一三日再入院して同年九月八日再度右眼の手術を受けることを余儀なくされ、その視力は昭和五一年三月二三日現在で右〇・〇四、矯正不能、左〇・六、矯正一・五、昭和五二年一月二七日現在で右〇・〇二、矯正不能、左〇・二、矯正一・二と著しく低下し、かつ将来右眼の視力が向上する望はなく、左眼の視力が向上する見込も殆どないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、前記和解契約は当時者相互間において、原告の視力が将来も右〇・〇五、矯正〇・七、左一・二程度であることを前提とし、その点につき何らの争いもなく締結されたものであるのに、事実はこれに反し、原告の視力は右〇・〇二、矯正不能、左〇・二、矯正一・二と著しく低下するに至ったのであるから、原告法定代理人らの前記和解契約における意思表示にはその重要な部分に錯誤があったものということができる。しかも、このような争いのない前提事実に右のような錯誤が存する以上、民法六九六条の規定は適用されないから、前記和解契約は原告の主張するとおり要素の錯誤があるものとして無効であるといわなければならない。

そうすると、原告の本件損害賠償請求権は前記和解契約によって消滅したものということはできないから、被告らは前示各責任原因に基づき原告の受けた次項の損害を賠償すべき責任がある。

四  損害

(一)  治療費        一〇万円

《証拠省略》によると、請求原因4の(一)の事実を認めることができる。

(二)  コンタクトレンズ代   一万八二四三円

《証拠省略》によると、請求原因4の(二)の事実を認めることができる。

(三)  付添看護費  一〇万八四〇〇円

《証拠省略》によると、原告の一回目の手術日たる昭和四七年一一月二七日から一二日間と二回目の手術日たる同五〇年九月八日から四七日間、原告は付添看護を必要とし、原告の母である佐田幸子がその付添看護をしたことが認められるので、その費用は昭和四七年一一月二七日から一二日間の分は一日あたり一二〇〇円、同五〇年九月八日から四七日間の分は一日あたり二〇〇〇円を相当と認める。従って、その合計額は一〇万八四〇〇円となる。

(四)  入院雑費    五万四九〇〇円

前記のとおり原告は国立病院に昭和四七年一一月二七日から一三日間、久大病院に同五〇年八月一三日から一〇二日間入院して治療を受けたことが認められるので、入院雑費は昭和四七年一一月二七日から一三日間の分は一日あたり三〇〇円、同五〇年八月一三日から一〇二日間の分は一日あたり五〇〇円を相当と認める。従って、その合計額は五万四九〇〇円となる。

(五)  通院雑費    一万二五〇〇円

《証拠省略》によると、請求原因4の(五)の事実を認めることができる。

(六)  労働能力減退による逸失利益   一七四八万〇八九五円

《証拠省略》によると、原告は事故当時両眼とも裸で一・二の視力を有していたのに、前記傷害のため現在では右眼は裸〇・〇二、矯正不能、左眼は裸〇・二、矯正一・二と著しい視力低下をきたし、将来右眼の視力が向上する望はなく、左眼の視力が向上する見込も殆どなく、読書をすると眼が疲れやすく、日常生活でも種々の不便を余儀なくされていること、原告は昭和三五年九月一五日生の男子であり、現在普通高校二年生であることが認められ、右事実と右後遺症は自賠法施行令別表第八級一号に該当することを総合勘案すると、原告は、現在以降平均して四五パーセントの労働能力低下による損害を蒙り、それが稼働余命年数全期間に及ぶものと認めるのが相当である。

ところで、原告は前示のように昭和三五年九月一五日生の男子であって、原告が遅延損害金の起算日とする昭和五一年四月一一日現在一五歳であるから、稼働可能期間である一八歳(昭和五三年)から六七歳までの四九年間労働能力の四五パーセントを喪失したことによる逸失利益を、原告主張の給与年額二四七万五一一五円により(何故なら、不法行為によってうべかりし利益を侵害された者の損害額の算出については、不法行為時に即時に金銭債権が生ずるのではなく、右被害者には一旦原状回復請求権が生じ、右請求権を金銭的に評価することによって、金銭債権に変ずると考えることも可能であって、そうとすれば右評価の時期は、裁判所に顕著な、労働者の平均収入は年毎に急増していることから考え、なるべく遅い時期すなわち口頭弁論終結時又はそれに近い時を基準とすることがその適正を保つ所以となるところ、昭和五〇年賃金センサス第一巻第一表によると、産業計、企業規模計、学歴計男子全年齢平均給与年額は二三七万〇八〇〇円であるけれども、昭和五一年、同五二年における右賃上げ率がそれぞれ少なくとも六パーセントを下らないことは公知の事実であるから、本件口頭弁論終結時である昭和五二年の右平均給与年額が原告主張の右給与年額を下らないことは明らかだからである。)、右昭和五一年四月一一日当時の現価をライプニッツ式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると、次のとおり一七四八万〇八九五円となる。

247万5115円×0.45×(18.4180-2.7232)=1748万0895円

(七)  慰藉料       五〇〇万円

《証拠省略》によると、原告は本件事故による傷害のため、小学校六年と中学校三年の各心身成長期に二度にわたる手術を受け、延一一五日間入院し、延約一年間通院して治療を受け、しかも自賠法施行令別表第八級第一号に該当する後遺症を残し、数年後から社会人として活動すべき時期を迎えて甚大な肉体的、精神的苦痛を受けたことが認められ、以上の事実を考慮すると、これに対する慰藉料は五〇〇万円が相当である。

(八)  損害の填補     一五〇万円

請求原因4の(八)の事実は当事者間に争いがない。

(九)  弁護士費用     一三〇万円

以上によると、原告は被告らに対し連帯して右の四の(一)ないし(七)の合計金二二七七万四九三八円から同(八)の損害填補金一五〇万円を控除した二一二七万四九三八円の損害賠償債権を有するところ、《証拠省略》によると、原告は被告らから任意の弁済を受けられず、右債権取立のため本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任し、その報酬および費用として判決認容額の一五パーセントを支払うことを約束したことが認められるが、事案の難易、原告の損害額等を考慮すると、右弁護士費用および報酬額のうち被告らに賠償を求めうべき額は金二〇〇万円を相当と認める。従って、原告の請求する内金一三〇万円は正当である。

五  結論

以上の次第で、被告らは原告に対し右四の(九)に示した本件損害残額二一二七万四九三八円と前記弁護士費用一三〇万円の合計金二二五七万四九三八円とこれに対する本件事故発生日以後である昭和五一年四月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負うものといわなければならない。

そこで、原告の本訴各請求を右認定の限度で認容し、その余の各部分を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用し、なお被告らの仮執行免脱宣言の申立は相当でないから却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官 池田憲義)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例